としまえん跡地への期待と不安 ~大きすぎるハリーポッター施設~
ひとつ前の記事ではとしまえんがある土地の歴史を紐解き、閉園後は水と緑にあふれる場所であった事を活かして公園整備される事を願った。
しかし、徐々に明らかになりつつある閉園後の計画を見ていると、どうもそうはならないのではないか、という不安が膨らみつつある。
ちなみに、私の立場としてとして前の記事でも書いた通り、としまえんの閉園自体は受け止めているし、そこに反対運動をする気はない。遊園地閉園後、別の集客装置を誘致するというのも妥当だと思っているし、ハリーポッターの施設や練馬城址公園ができたら是非遊びに行きたいと思っている。
しかし計画の進め方や現状分かっている計画には疑問があり、決定経緯についてもう少し明らかにして欲しいと思っているのだ。
目次
大きすぎるハリーポッターの施設
これが公開されている「(仮称)スタジオツアー計画」の図面だ。としまえんのアトラクションを呑み込むように本館の建物が建ち、その北に道路が通り、現在のトイザらスの位置に駐車場を建造する計画となっている。本館の敷地面積はなんと30,000㎡だ。
位置的には中央のフライングパイレーツやサイクロンの乗り場、トロイカやブレイクダンスはもちろん、東側はカルーセルエルドラドやフリュームライドの乗り場あたり、北はコークススクリューの乗り場、西はイーグル、マジック、スイングアラウンド、ウェーブスインガーまでもをすっぽりと覆ってしまえるだけの広さがある。
それだけではない。建物の高さが19mもあるのだ。としまえんの建物で例えると、サイクロンの最大高低差が18mだから、それよりも高い事になる。
また一般的にマンションは1階3mで建てられるので、6~7階建ての建物に該当する高さだ。 6~7階建ての建物がとしまえんのアトラクションを覆うように建てられる。文字通り大規模開発である。
水と緑をどうやって活かすのか、という疑問
6月12日、としまえんの閉園が決定すると、西武鉄道や東京都、ワーナーブラザーズなどの間で覚書が締結された。
覚書にはこう書かれている。
覚書締結者
東京都、練馬区、西武鉄道株式会社、
ワーナーブラザースジャパン合同会社、伊藤忠商事株式会社練馬城址公園に求められる機能に関する基本目標
「緑と水」
都民に憩いの場を提供するための緑の空間の創出
石神井川などを生かした快適な水辺空間の創出
「広域防災拠点」
災害発生時に避難場所等となる広場や防災施設の確保
周辺地域から公園内を東西方向、南北方向に避難できる園路の確保
「にぎわい」
多様な交流活動が行われ活気をもたらす空間の創出
来園者が憩う便益施設の整備
引用元:
ここには明確に「都民に憩いの場を提供するための緑の空間の創出」、「石神井川などを生かした快適な水辺空間の創出」という文言がある。しかし、あらためてハリーポッターの施設の計画図を見ると石神井川のギリギリまで建物が迫っていることが分かる。水辺はどこに創出するのか。
「南側に作ればいいんじゃないか?」
と思う方には、地形図をお見せしたい。
これは国土地理院1万分の1の地形図「練馬」に着色したものだ。肌色が標高34m以上、茶色が標高40m以上の土地を現している。
ご覧の通り、としまえん内の石神井川は緩いカーブを描いており、南岸は台地に接しているのだ。その台地で最も標高が高いのが練馬城の城山である。
プールで遊ばれたことがある方は、アトラクション側から橋を渡ってプールに行く際、坂道を上った記憶があると思う。あれは台地の斜面を登っているのだ。
平成9年に河川法が改正されて以降、石神井川の流域でも多自然型川づくりや緩傾斜護岸の創出が行われている。最近整備されている都立東伏見公園付近の石神井川でも水辺空間の充実が図られた。
練馬城址公園を真に緑と水にあふれる空間にするのであれば、現存の緑を保全したうえで、北側の低地で水辺空間の充実を図るのが妥当なのだ。南側への拡幅は台地があるため現実的ではないし、もし拡幅した場合は斜面林を削る可能性があり、その中には城山の森も含まれる。それはとしまえんが残してきた自然の喪失であるし、史跡の破壊でもある。
また近年は台風の大型に伴い、水害被害が深刻化しており、より一層の治水対策が求められる。としまえん跡地には川辺の低地にまとまった土地があるのだから遊水池を設けて水辺空間の創出と治水の強化を図ることもできるはずだ。そういった案は無いのだろうか。もし今後治水計画を強化しようとした場合、旧としまえん敷地はハリーポッターの建物が川に近接し過ぎている事がネックになることが予想できる。
さらに、としまえんの北側には前の記事でも紹介したが、あじさい園の林がある。この林には9月6日放送された「鉄腕DASH」でカブトムシやクワガタムシ、タヌキなどが生息している様子が紹介された。
この林がどうなるのか、現在のところ計画図からは読み取りきれないが、これだけ大規模な建築が行われるとなると、何らかの影響は必然的に受ける可能性がある。
保全する気があるのか無いのか、保全する気があれば開発中はどういう配慮をするのか、いずれにしても施工前に十分時間的余裕を持って区民・都民に説明して欲しい。
鉄腕DASHでは、こどもたちが虫に触れる事は、脳の成長の上でも良いと紹介された。
東京都の各機関や議員の方々には、子供たちに情操教育の場を残すのか、子供をコンテンツビジネスの場のみを与えるのか、よく考えて欲しい。
どうしても強引な印象を受ける今回の計画
こうして少しずつ明らかになる跡地の計画を見ていくと、当初「緑と水辺空間を活かした防災公園の計画」だったものが、「ハリーポッターありきの計画」になっているような気がしてならない。
ちなみに練馬城址公園の構想自体はかなり昔からあり、1957年の東京都の都市計画には既に存在していた。練馬区の基本計画にも「練馬城址公園」の名前はずっとあり、それが東日本大震災の際、防災公園の重要性が高まることで再び注目されるようになった。
そして今回の話はずっと膠着していた計画が、ハリーポッターのワーナーブラザーズの登場で一気に現実化したものだと考えられる。
だが公園とは本来、公園のあり方、住民の要望、様々な評価をとりまとめた上で計画を建てるべきものだ。その中には本来は住民が参加するワークショップ等も開催すべきで、それをとりまとめるのが行政や議員の仕事であるとも思う。
しかしとしまえんが閉園した今、我々はハリーポッターの施設の計画を目にしているが、練馬城址公園の基本計画を目にしていない。詳細計画はまだ無いにしても計画がまだ少しも形になっていない状態なのだ。
公園の計画、ゾーニングがあり、その中で民間企業を誘致するのなら分かる。しかし、今の状況を見ているととりあえず防災も水も緑も住民の意向も後回しで、ハリーポッターのために計画を進めているようにしか見えない。
その中でTwitterで話題になっているのが、「自分がこの計画を動かした」と言うおじま紘平都議会議員のこれらの投稿である。
おじま紘平(東京都議会議員・練馬区) (@ojimakohei) | Twitter
色々引っかかる点はあるが、一番疑問なのはとしまえん閉園後の土地の活用について、協議中とは言え事前に全く情報を都民に公開する気が無かった事だ。
たしかに民間企業との交渉は、全てオープンにすることはできない。だが、敷地のどのあたりに、民間企業を誘致しようとしているという方向性くらいは開示できたのではないだろうか。ただそれも本来は先にゾーニングがあってこそだ。
もう一度言うが私はハリポッターが来る事自体は反対ではない。
だが、この発言は「物事を動かす事」を優先し過ぎていて、地域や公園づくりの本質を見失った人の心情であると思う。
議員の役割は何なのか。投稿のいくつかの言葉は練馬区の人々に言うべき言葉だったのか。大きな疑問である。
我々にできること
こういった一連の動きがあり、私はまず前記事でとしまえんの土地の歴史を紹介し、この記事も書いた。
としまえんの閉園については、色々な思いを持つ人がいると思う。
そもそもとしまえんの閉園に反対だという人、プールだけ残して欲しいという人、同じく西武グループが運営する八景島のように土地は自治体が持ち、アトラクションは残して民間企業が運営して欲しいという人。
私は閉園は受け止めているが、水と緑を活かした整備をして欲しいと思っている人だ。そして同時に、このままでは地元住民のための公園にならないのではないかと危惧する人でもある。
ハリーポッター施設については、石神井川から10m以上離れる形、南側斜面を伐採しない前提で再検討して欲しいと思っている。
ネット上ではそれぞれの思いから署名運動をやったり、キャンペーンを立ち上げる人もいる。最後にそういったページへのリンクと、住民の意見を受け付けている場を紹介して終わりにしたい。
これは終了してしまっているが、としまえんの閉園自体に反対するキャンペーンだ。charge.orgは比較的キャンペーンを起こしやすいサイトなので、本キャンペーン終了後も興味のある人は別のキャンペーンを立ち上げてみるのもいいかもしれない。
- としまえんのプール営業を残してほしい!6年以上、最低100周年まではお願いしたい。(Voice)
プールだけは残して欲しい、という人の署名運動がこちらだ。期限は10月16日までなので、賛同する人は早めに署名しよう。
- としまえんの未来を考える会
としまえんと、都立公園(練馬城址公園)について考える練馬区民の集まりだ。勉強会をリモートでも行っているのでチェックしてみよう。
- としまえん水と緑の公園で遊ぶ会 ※9/19追記
こちらは少し別のベクトルで、「大人と次世代を担う子供たちが遊べる魅力的な水と緑の空間を一緒に学んだり、創り、使いながら育てる」をコンセプトとした団体だ。
ただし、あくまで跡地をゼロベースで考える団体なので、としまえんの閉園に反対やスタジオツアーへのアンチ活動をする団体ではないことに気を付けよう。
・ネクスト法律事務所(陳情書を作成、提出) ※9/19追記
弁護士平岩氏によるブログで、陳情書を作成し、練馬区議会議長に提出。都知事あての陳情書も提出しているが、10月6日までは署名も受け付けているとのこと。
ブログの言葉がかなり乱暴で本筋から離れた事も多いが、陳情書自体は防災計画に焦点を当てており、かなり実効性が高い内容だと思う。
また、私は元建設コンサルタントなのだが、経験的に行政に多数が意見を寄せることは計画を決定する上で非常に重要だ。
そこで東京都の住民意見募集の窓口を紹介する。
- 都民の声総合窓口
基本的には上記が都民の声の総合窓口だ。住民の意見として、言いたい事があれば言ってみよう。
- 計画等に係る意見公募
www.johokokai.metro.tokyo.lg.jp
具体的な計画については上記が窓口となる。現在のところ練馬城址公園の計画に該当するものは無いが、意見を募集した際は上記に掲載されるので確認しよう。
- 都民ファーストの会お問い合わせ 9/19追記
小池都知事のホームページには問い合わせ窓口は無いが、小池都知事およびおじま紘平議員が所属の都民ファーストの会には窓口がある。
政治家としての小池百合子氏にメッセージを届ける窓口として活用しよう。
最後に、前記事と全く同じ事を書いて締めくくろうと思う。
この土地にはとしまえんが残した緑がある。水辺は石神井川を活かせば再生できる。実際石神井川の流域では、東伏見や上石神井、南田中等で親水護岸が作られ水辺が再生しているところがある。
としまえんが無くなっても、この土地が練馬の人々に愛される土地になる事を祈っている。
※9/19 追記 この続きの記事を書いたのでご一読いただきたい。
在りし日のとしまえんについては、こちらも読んでいただけると嬉しい。