としまえん跡地への期待と不安 ~膨らむ区民の不安と不満~

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閉園したとしまえん

 としまえん閉園と練馬城址公園の計画について過去当ブログでも記事を書いてきたが、予想よりも多くの方にご覧いただき、嬉しく思っている。当ブログの記事がとしまえん閉園後のあの土地について発展的に考える上で何かしらの力になれれば嬉しい

 

 ところで、SNS上ではこの一連の動きについて様々な情報が飛び出しており、信憑性の高いものもあるが、中には感情論が先走り過ぎて論理性の全くないものも見られるのは事実だ。
 問題提起をするのであれば問題をきちんと理解し、今一度冷静になって欲しいと思い、私が把握している事を整理して紹介したいと思う。

 

目次

 
スタジオツアーがここに建設できるロジックとその問題点

 

 区民の中には東京都が公園の中に強引にワーナーを誘致したと思っている方もいらっしゃるが、今回の計画はそうではない。それは下記を見れば明白だ。

・東京都
練馬区
西武鉄道株式会社(土地所有者)
ワーナー ブラザース ジャパン合同会社(民間施設運営)
伊藤忠商事株式会社(民間施設等建築及び管理)

都市計画練馬城址公園の整備にかかる覚書の締結|東京都

 つまり、「練馬城址公園と隣接する西武鉄道の土地で、伊藤忠商事が建物を建てて、ワーナーが運営することを東京都と練馬区に協力するのであれば認めるよ」というのが今回の覚書だ。

 練馬城址公園については段階的に西武鉄道が東京都に土地を譲渡する事になっているが、スタジオツアーが建てられる土地は30年間は西武鉄道の所有地なのである。
 だから公園の基本計画が完成する前にスタジオツアーの計画が出来上がっているという点は、そもそもその土地は向こう30年は東京都の土地ではないのだから、東京都の計画に含まれないというロジックは成り立っている
 また、建物が大きすぎるという点についても、としまえん跡地は都市計画的には「第2種住居専用地域」であるので、基本的に高さの制限は緩い。だからこそとしまえんにフライングパイレーツやイーグルがあったというわけだ。

 

 ここで重要なのは、練馬城址公園とスタジオツアーの敷地の線引きを誰がどういう経緯で決めたのかということである。

 はたして、東京都が本当にこの土地を「都民に憩いの場を提供するための緑の空間の創出」「石神井川などを生かした快適な水辺空間の創出」という覚書にある基本目標を重視して協議していれば、北側の斜面林の敷地や石神井川の河川敷ギリギリまでスタジオツアーの敷地とすることを認めていただろうか。その点は疑問である。
 

東京都の中での検討

 

 練馬城址公園のような大きな都立公園の計画は、東京都公園審議会というところで諮問、審議をされながら計画が形作られていく

www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp

 東京都公園審議会についてはどういう組織か、ホームページにある文章をそのまま掲載する。

  東京都公園審議会は、知事の諮問に応じ、公園及び霊園の整備計画や利用普及・運営に関する事項を審議して答申し、公園及び霊園の整備充実とその適正な運営を図るためにおかれた知事の附属機関です。

 要するに建設局の中にある知事直系の機関というわけだ。

 現在、練馬城址公園については6月30日の第1回東京都公園審議会で諮問9月8日の第2回東京都公園審議会で審議があり、次は11月の審議を経て、翌年1月にパブリックコメントを募集する計画となっている。

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スケジュール(諮問資料)

 余談だが、この諮問資料と審議資料、なかなか完成度が高く面白い
 特に私が関心したのが諮問資料の「地形」と「土地利用変遷」、審議資料の「緑と水 - 公園整備への展開」そして「ゾーニング案」だ。

 「地形」図は私が前記事で紹介したものよりも余程見やすく、練馬城址や両側の沢の地形まで非常に分かりやすい。「土地利用変遷」は私が前々記事で紹介したこの土地の歴史が地図や航空写真を使って視覚的に分かるように説明している。一としまえんファンとして、なんだか嬉しいものがある。

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地形(諮問資料)

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土地利用変遷

 さらに「緑と水 - 公園整備への展開」では樹木の分布の分析や、井戸を使って低地に水辺を作ることも示唆されているし、「ゾーニング案」もあくまで案だが現況地形や周辺環境、歴史を配慮した妥当なゾーニングだと思う

 

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緑と水(審議資料)

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ゾーニング案(審議資料)

 もちろん個人的には一部、不満もある。水辺づくりに緩傾斜護岸の検討がないなど石神井川が全く活かされていないこと、北の斜面林については「保全」ではなく「整備」という言葉で大きく手を加える前提になっていること、南側の水景施設が谷戸地形だけでなく台地上からはじまっている事などだ。

 ただ、そういう疑問点を受け付ける場として「パブリックコメント」というものがあるわけだから、それは来年の1月に区民の声として上げることはできる

 

 しかしこの資料の中で浮いているのが「にぎわい - 民間との連携」のページで唐突に現れる「スタジオツアー」であり、これは諮問が始まる前から既定路線となっている事だ。もちろん、ここだけはまだ民有地である前提なのだが、やはり審議が始まる前にスタジオツアーの範囲だけ何の言及も無く決まっているというのは「ハリーポッターありき」という印象を感じざるを得ない

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にぎわい(審議資料)

 そして覚書ではスタジオツアーは練馬城址公園の防災機能の一翼を担う事になっているのだが、工事中についての言及はこの資料の中にもない

 元々としまえんは避難場所と災害時臨時離着陸場候補地されていたので、工事中の期間は周辺住民は避難場所を失っている可能性がある。この点については速やかな説明が求められるだろう。

 

 そしてそもそもこの審議会、諮問から2カ月半経過しているのだが、議事録が未だに開示されていない。審議会の中でどのようなやりとりがあり、覚書についてはどのように会の中で説明されたのか、都は都民に早急に開示する必要がある

 

改めて、今回の問題点の整理

 

 ここで問題点をまとめるが、先に一つ言いたい事がある。それは今回の公園づくりは事業スキーム自体は画期的であるという事だ。これは批判する前に認めるべき点だと思う。

 私も以前、公園のPPP/PFIに関わる仕事をしていたが、公園内に民間企業を誘致しても結局制約が多くて大規模な事は行えず、集客装置としての機能を十分に果たせていない事例は多いと感じていた。それらは、結果的に自治体の助成金補助金、委託金ありきの、持続可能ではないものと化してしまいがちだ
 しかし今回のとしまえんのスタジオツアーは、段階的に西武鉄道が土地を譲渡する前提で、あくまで公園の中に自立的に集客装置を大規模に作れるという点が画期的である。このスキームがあるからこそ、西武鉄道もしばらくは新たな集客装置の地権者として見返りがあり、としまえんを閉園してもwin-winな関係となっている。


 今回の件で批判の矛先の一つとなっているおじま紘平議員だが、本当にこの話を進めたのだとすれば非常に賢い人物だと思う

 しかし、逆におざなりになっている点が多くあるのは事実で、それが今回の騒動の問題点の核なのだ。それをまとめると下記のようになる。

 

問題点① としまえん閉園後の近隣住民の避難場所について今のところ何の説明もないこと

 としまえんは閉園前から都指定の避難場所だった。それが閉園され建物が建つまでの間どういう扱いになるのか、全く説明がない。

問題点② 覚書にスタジオツアーの面積や規模について全く規定を設けていないこと

 防災拠点となり、かつ覚書の基本目標を達成する上では、スタジオツアーの位置や面積について、本来東京都は厳しく口を出すべきである。それは覚書の締結者の中でその土地の自然と近隣住民の安全を守るのは練馬区と東京都の役割だからだ。しかし、覚書には民間企業の範囲を規定する文言が無く、誰がどういう経緯でスタジオツアーの範囲を決めているのかも全く分からなくなっている。

問題点③ 解体工事が閉園翌日から始まっていた事

 解体工事は2020年9月15日~2021年4月30日(予定)となっているが、9月1日から工事が始まっていたとの目撃情報が多数あること。ウェーブスインガーやカルーセルエルドラドはかなり早い段階で工事が始まっていた様子がSNS上で共有されている。なお、解体工事の施工者は西武建設である。

問題点④ 練馬城址公園で想定している防災拠点としての能力

 練馬城址公園は防災公園であるという以外、具体的に何人をどこでどういった形で災害時に受け入れるか、その場合公園にどういう機能が求められるのかの定義づけが曖昧である。曖昧だからこそ、スタジオツアーの規模を決定する因子が欠けているともいえる。

問題点⑤ これら①~④について、圧倒的に説明が足りない事

 とにかく説明が無いことが区民の不安と不満を煽り、噂が噂を呼ぶ混乱を招いている。これが問題なのだ。

 逆に言うと目立った問題点はこの4点である。それ以外の「カルーセルエルドラドを残して欲しい」、 「プールは残して欲しい」というのは区民からのあくまで要望だ。問題と希望・要望は分けて考えよう。

 

 ちなみに、練馬区は6月19日に議長名義で意見書を東京都に提出し、その中には

3 事業化に向けたスケジュールを速やかに公表すること。
4 事業化に向けて、パブリックコメントや説明会等により、区民への丁寧な説明と意見聴取を行うこと。

 という項目があったが、それを東京都は無視している状態だ。

www.city.nerima.tokyo.jp

 

 これはあくまで推測だが、その一週間前である12日に締結した覚書に組み込む事ができなかった練馬区の意見を後から意見書としてまとめているようにも見える。


 まず区民・都民が求めるべき事、そして東京都が行うべきはシンプルだ。「説明」である
 


私たちがやってはいけないこと

 

 このような混乱の中でSNS上でもリアルでもとしまえん閉園とスタジオツアー計画に対して明らかな反発が見られるようになってきた。そしてその中には根拠の薄い推察や、問題点を掴まないままの的外れな言いがかり乱暴な言葉で都や企業を批判する人も見られる。
 言っておきたいのだが、そういった感情の掃き溜めとしての反発運動は問題に対して既に思考停止を起こしており、何の解決能力も持たない
 学校や会社であれば誰かが叫べば教師や上司が仲介に入ったかもしれないが、社会にそんなものは存在しない。学校や会社には噂話で人に報復する人もいるが、それは溝を深めるだけだ。

 都や都議の進め方に問題があるからと言って彼らは敵ではないし、憎むべき相手ではない。としまえん閉園は悲しいし、説明不足が不安を増長させているが、不安に負けて自分たちがただの悪質クレーマーやデマッターにならない事に気を付けよう

 

 クレーマー的な活動は正当な理由・プロセスで都に疑問を投げている人の足を引っ張る可能性もある。  特に気になるのは、西武鉄道を批判する人」「利権という言葉を安易に使う人」だ。
 前の記事でも言ったが、としまえんの現場は確かに頑張っていたけれども、としまえんは決算的には持続が難しい経営状況だった
 2019年の決算は純利益が約52万円、2018年の決算は逆に22万円の赤字。確かに持ち直しているが、一つのテーマパークの利益としては小さすぎる。社員の賞与を少しでも増やしたり、例えば塗装の剥げているブレイクダンスやマジックのペンキを塗りなおしただけで消えしまうくらいの利益だ。


 これではさらなる投資、例えばシャトルループクラスの絶叫マシンを新設する事なんて絶対にできない。富士急レベルのジェットコースターの建設には30~40億円もかかる。

 そうなると、閉園のタイミングを待つという経営判断にならざるを得ない。どうしてそうなったかの原因を言えば、我々を含む利用者が以前ほど行かなくなったからに他ならない西武鉄道としまえん愛を問うのも筋違いだ。


 西武鉄道を批判するのであれば解体工事の施主ではあるので、西武建設の早すぎる解体工事に何らかの説明を求める事はあっても、閉園についてはむしろこれまでとしまえんを存続してくれた事に感謝すべきだと思うし、スタジオツアーの地権者としてお金が入る事は当然のことで、そこに難癖をつけるのはクレーマーと変わらない

 強いて願いを言うならば、今回得るお金の一部はバリアフリーや線路の立体交差化など、本業の鉄道の利用者や沿線住民のために使って欲しいと思う。

 

 そして「利権」という言葉。確かに今回の件は官民が手を組んで利益を出そうとしている。だがそれ自体は悪ではないし、それを悪とするのは資本主義自体の批判だと思う。
 もしそれが「利権政治」であれば叩かれなければいけないが、今のところ収賄があったという情報もない。企業は事業によって利益を出すから存続できるのであり、安易に「利権だ」と言って民間企業を叩くべきではない
 「金儲け」という批判も全く同様だ。

 

 こういった発言は特に署名集めをしている人々の中で散見される。自分たちが署名を集めるために分かりやすい批判対象を作ると言うのは悪質なネガティブキャンペーンに他ならない。

 純粋な区民の意見として署名を集めたいのであれば、不安や不満を煽って署名してもらうような事はないよう、情報の整理と言葉に気を付けて行おう。

 

 またおじま紘平議員に対してもTwitterで乱暴な言葉を見受けられる。確かに、彼には問題があるし、彼が進めたという今回の話には穴がある。

 一連のツイートの中に区民の不安と不満を煽るようなものがあったのは事実だ(現在は削除されているようである)。

 しかしだからと言って彼の人格を否定するような言葉は絶対に吐いてはならない。今のところ金銭的に黒い噂があるわけでもないし、彼を支持しないのであれば相手は政治家なのだから選挙で示せばいいだけの話だ。


私たちにできること

 

 先ほども書いたが、この混乱の中で様々な動きが生まれているが現段階で都が怠っている事、そして区民・都民が求めるべき最も重要なことは非常にシンプルで、「説明」である

 

 個人的には石神井川の多自然型川づくりと親水護岸化はして欲しいし、署名運動ではプールの存続を求めている人がいたり、さらには練馬区の意見書ではカルーセルエルドラドの残置を求めているが、これらは公園計画の立案が健全な段取りで進んでいればパブリックコメント等を通して要求できるものだ・・・本来は。

 しかし都は問題点①~④についての説明をしていないばかりか、これだけ関心が高まっているのに、審議会の議事録の公開も遅い

 

 情報は区民でも集めている方がいらっしゃるが、やはり最前線で仕事として本件にあたっている区議や都議の方の情報収集と対応にまずは注目しよう。私が現在把握している中で本件に積極的に携わっている議員の方たちは以下である。ただし、議員のこういった活動の原動力というのは国会でもそうだが、もちろん区民・都民の声を吸い上げるという方もいらっしゃるが、最初から都知事やその所属政党を批判する前提の方もいる。

 推察等についてはいつも必ず正しいわけではない点は気を付けよう。


 そんな中、件のおじま紘平議員は説明不足を認め、Twitterで意見を求めている。

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おじま議員のツイート

 

 とはいえ彼は都民ファーストの会の一議員である。意見を求めているが彼が大きな権限を持っているか不明だし本当に彼一人でやった事だとは思えない。それに、Twitterは正式なプロセスとは言えない。

 公園審議会も知事直轄部隊であるし、やはり意見を提出すべきは都民ファーストの会のトップでもある都知事であると思う。

 

www.metro.tokyo.lg.jp

 

 また、小池百合子都知事個人のオフィシャルサイトは問い合わせ窓口を設けていないが、都民ファーストの会には窓口がある。おじま紘平議員も所属している事もあり、ここに意見を寄せる事も重要であると思う。

tomin1st.jp


 さらに、こういう時はメディアの力を借りる事も考えなければいけない。マスコミの中には的外れな批判、強引な論調をする記者、番組もあるが、本来政治にメスを入れるのがマスコミの役割だ。
 きちんとしたプレスリリースでなくても、情報を受け入れている番組がある。それらはどうしてもニュース番組というよりはワイドショーに寄りがちではあるが、問題の顕在化・社会的認知を上げるという目的では有効なので、時間がある人は情報を提供してみよう。それに私個人の印象だが、小池都知事はマスコミ受けは非常に気にしていると思う。
 ちなみに情報のまとめとして当ブログの記事を使っていただく事は構わない。

 

 以下に、情報番組の視聴からの情報窓口をまとめる。

 

 最後に念のため書いておくが、前回も書いたが私はとしまえんの閉園自体は受け止めているし、そこに反対運動をする気はない。遊園地閉園後、別の集客装置を誘致するというのも妥当だと思っているし、ハリーポッターの施設や練馬城址公園ができたら是非遊びに行きたいと思っている

 

 しかしスタジオツアーが経緯も詳細も不明なため、としまえんが残してきた林や水辺づくりに影響を与えないかを懸念している立場である。

 そこで私はダメ元で、JKローリングさんにTwitterでメッセージを送ってみた。今のところ反響は無いが、このツイートは、私の記事に賛同していただけたら良ければ拡散していただけると嬉しい。ツイートの反響が大きくなれば、JKローリングさんの目にも入るかもしれない。

 

 この土地にはとしまえんが残した緑がある水辺は石神井川を活かせば再生できる。実際石神井川の流域では、東伏見や上石神井、南田中等で親水護岸が作られ水辺が再生しているところがある。

 としまえんが無くなっても、この土地が練馬の人々に愛される土地になる事を祈っている。

 

としまえんについての過去の記事もご覧いただければ嬉しい。

hidephilax.hatenablog.com

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